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「30代に伝えたい、日本がバブルを防げなかった理由」

「他人の意見に流されない」真のダイバーシティが成功へ導く

2019.11.4 (月) 岡村 進

私はもともと気弱で、周りの評価ばかり気にしている昔ながらのサラリーマンだった。そんな私だから、未だに忘れられない苦い経験がある。
日本の金融機関に入社してまもなく、1980年代後半、不動産業界への貸付審査担当をしていたときだ。当時は日本の投機バブル真っ盛りの時期で、最盛期には不動産価格が毎月10%上昇したと記憶している。事業会社ですら、価格上昇を見込んで土地を買っては短期で売り抜け売買益を稼ぐ姿が目についた。いまからは考えられないが、頭金なし、100%借金で巨額の土地が売買された。地価が上がり続けている限り、売り手は売却益、貸し手は高い金利を稼げた。買い手も、数カ月も経てば、手数料や税金を控除しても利益を上げられた。「異なる視点を示せない・・・」バブルの苦い記憶

新人である私の頭に浮かんだのは、「錬金術」という言葉。当時同期と二人で不動産業界の動向について部門内で発表する機会があった。事前準備の時に、「不動産価格の上昇が止まった途端、不動産融資先はみな行き詰まるのではないか?」という発言をした途端、上司に、「お前、〇〇開発も、△△カンパニーもつぶれるというのか?それでは日本の終わりだよ」と笑われたのを今も鮮明に覚えている。
恥ずかしながら、気の小さい私はすかさず発表のトーンを穏やかに直そうとした。これに頭のきれる同期は、戸惑いを示していた。「僕らの指摘は間違っていないよね?だったら言えばいいじゃん」、とのスタンスだった。
結局二人で相談して、リスクは指摘するものの、本心とは離れたマイルドな言葉に置き換えたのだ。いまから思えば意思を曲げることにつき合わせた同期には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。その後、当時はあり得ないと思われた倒産が連鎖的に発生し、業界を越えて日本は失われた20年に突入していった。

欧米企業の個性重視は生き残り戦略の一つ

バブルの渦中で働いていた状態を何かに例えるとすれば、夜の二次会、三次会で泥酔しながらカラオケに夢中になっているようなものだ。
私は酒が弱いのでより強く実感するのだが、ウーロン茶を飲んでいても自分を酔わせて気持ちを高めていかないととてもついていけない。「そろそろお開きの時間ですね」などと冷静なことを言えば、「つまらないやつ」として弾かれていくわけだ。
不動産融資業界についても同様だった。いま思い起こすと、“業界常識”のおかしさに気づいたのは、新人のわれわれだけではなかった。不動産上昇神話の異常さを指摘する人はどの企業にも複数存在していた。しかし、彼らは一人、そしてまた一人と、エリート路線から外されていった。正論を吐きながらも出世できるのはごく一部の天才だけだ。私も含めて大勢は、何かに気づいても、それを上手な言葉に直して発信していかないと消えていくだけだ。だから、物事には言い方がある・・・そんなことをずっと若手・後輩たちには助言してきた。
しかし一方で、「感性も鋭くて、発信の仕方も上手な人なんて、いったいどれだけいるんだろう?」とずっと疑問にも思ってきた。
その後、外資系金融機関社長となってみて、自分の疑問は確信に変わった。グローバルビジネスの現場は、サバンナのサファリパークのようなものだった。個性爆発、自分の信じるままに思いを発信し、ぶつけ合う場だった。マネジメントの役割は、「言い方を直したほうがよいぞ」と指導することではなかった。求められるのは、「言い方はともかくも面白いことをいうなぁ、変なことをいうなぁ、なぜそんなことをいうの?」と質問する力だったのだ。

「営業に人格指導するな!数字が出なくなる!」

思いを素直に発信する大切さを伝えたくて、数年前にグローバル時代のマネジメント養成予備校を設立した。
生徒の所属業種はもちろん多種多様、年齢は20代~50代と世界でも稀な広がりだ。こんなに経験差のある社会人の間で議論が成り立ちうるのか?と疑問に思うかもしれない。でも立派に議論は深まり、互いの成長を促していくのだ。
経験は武器であり、弱みにもなる。新人時代に学んだことだ。だから、多様性環境を作ることに徹底的にこだわっている。
新人は時に、常識を疑い、真実を抉り出すことの大切さを思い出させてくれる。逆に高齢者も大切だ。昨今バブルの話をしても、ピンとこない世代が増えた。お荷物世代と言われるわれわれ50代は、バブルの生成と崩壊を言葉にして、伝えることからビジネスパーソンとしての自身の市場価値を高めることができる。世代を超えて、本音をぶつけ合うことからどれだけの学びがあることか!
個々人が発信する力をマネジメントの側から表現すると、個々人の感性を引き出す力と置き換えられる。
私はグローバルビジネスの現場長として、大きな実績を上げた。そのきっかけは、世界のトップに怒られたことに始まる。
主張が強く手を焼いていた部下についこぼしたときに、そのトップにこんな指摘を受けた。
「営業に人格指導するな!数字が出なくなる!」と叱咤されたのだ。
凄いことを言うなぁ・・・ひどいなぁと正直その時は思った。しかし、自分もグローバルエグゼクティブとして徐々に成長していくと、その言葉の真意を肌で感じられるようになった。
「長所を見て経営せよ!」ということだったのだ。

欠点を見つけているヒマなんてない

ここで、本日付けで会社をやめ、元同僚4~5名で起業することを想像していただきたい。ゼロからの立ちあげだ。「ビジネスを作らなきゃ!」とプレッシャーを感じることだろう。その時におのずと関心が向かうのは、共に働く仲間の強みのはずだ。
最初に仲間の欠点に目が向く人はまずいないのではないか。なぜなら欠点を直しても金にはならないことにすぐ気づくからだ。
もちろん強者の論理で、トップに上がっていく人間にはいつか弱みの是正教育が不可欠だ。ただし、強みの強化なくして成功はない。大事なのは優先順位なのだ。
個々人が自分の強みに基づき、思いを発信することは、バブル崩壊のインパクトを削減する最大のガバナンス策にもなる。
そういう意味で、昨今ダイバーシティが大きく叫ばれ、個性を尊重する風潮が出てきたことは素晴らしい。それぞれが自分らしい働き方を選択できるようになった。まずはステージ1到達だ。
各自が自分らしく働き始めると、それを束ねるマネジメント側には負担感が生じる。その割にビジネス面で成果が出ないと気持ちがなえる。
だが、真のダイバーシティはビジネスの成功に直結するものだ。だから次なるステージ2の鍵は、個性を引き出しシナジー効果を生み出すマインドとマネジメント力の養成にある。
言い方にあまり左右されず、内容にフォーカスするステージなのだ。冒頭の私が失敗してしまった不動産バブルの事例をもう一度、思い起こしていただきたい。上司は笑って「そんなことないでしょう」と言っただけ。決して高圧的であったわけではない。それでも自信の持てない若手にとっては、変節するに十分な言葉だった。

グローバル企業はなぜ強いのか

グローバル時代とは即ち多様性の時代である。異なる価値に触れたときに、「自分と違っていて良いな!」とポジティブに感じ、そこからビジネスのヒントを創出できるのがグローバル時代に活躍できる人財の要件だ。起業家ばりに、ビジネス目標の実現に燃えていれば、異なる価値観をマネージする手間よりも、ヒントを得る喜びの方が大きく感じられるようになるはずだ。
われわれは何のために働いているのか?いまの会社で、部門で何を成し遂げたいのか?それを考えることが“真の”ダイバーシティのスタート地点となる。
私はよく「社会人にもなって、目的なき試験勉強をするのなら、燃える目標を探すことに時間をかけたほうが良い」とよく若者に助言してきた。考えてもすぐに答えが出ないから、時間を浪費しているような不安を感じる気持ちはよくわかる。だからこそ、自身の目標探しに向き合う意味がある。グローバル企業の強さの秘訣はここにある。
仮でも良い。燃える目標を見つけられた人財は、信念を簡単に曲げなくなる。努力もいとわなくなる。だから成長し、ビジネスパーソンとしての市場価値があがるのだ。面談してもそういう人財の言葉からは気迫を感じ取れる。
ラグビー日本代表の躍進をみれば、目標を持つエネルギーがいかほどのものか、わかってもらえるはずだ。
自分を取り巻く環境の急速な変化が予想されようとも、先取りして自己変革に取り組める人は少ない。常に成長し続けられるのは、心を燃やせる目標を見つけられた人財だけなのだ。