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JB Pressに掲載されました  組織にはびこる「忖度」こそが日本没落の主犯と断言できる理由

組織にはびこる「忖度」こそが日本没落の主犯と断言できる理由
〜似ているようで似ていない「気配り」が低迷脱出には不可欠だ〜
2022.12.11(日)
岡村 進

●いよいよ日本の没落が明らかになってきた。

アメリカの物価高に加えて円安影響でNYのホッケ定食はいまや5000円だ。

アジアに旅行したら一流ホテルに泊まっても安いと思えたのは遠い昔の話で、いまは少し質素なホテルで我慢する。レストランでは、地元の人が景気よく料理を頼むのを横目で見る感じで、いままさに、一度は栄えた日本が貧乏国に転落しつつある。

●日本をダメにする「忖度」、再興させる「気配り」

かつて日本を愛してくれたシンガポールのリー・クアンユー元首相が、生前にこう語ったことを皆さんはご存知か。

「多くの国は自国の問題の解決方法が見つからない問題を抱えている。日本は、解決方法が分かっているのに、誰も行動しようとしないという他国とは異なる問題を抱えている。考えようによっては、日本の問題の方がもっと根深いのかもしれない」

そう、今の日本の没落なんてものは実は何十年も前から分かっていたことだ。それを解決に導けない日本社会は、強烈なる“金縛り”にあっているとしか思えない。

その金縛りの正体はなにか。筆者は「忖度」だと結論付けている。

しかし、同時に日本には「忖度」とは違う「気配り」というものが存在する。日本の美徳とも言える気配りは一定の要件が備わった時に、世界最高のパワーを発揮してきた。

私は「人財アジア」というアジア人向け教育機関を運営してきたが、その経験から今回はビジネスパーソンに向けて、日本をダメにする「忖度」と日本を再興する「気配り」の違いについて熱く語りたい。

このままいけば、日本人の多くは予測通りかなり貧しい状態に追い込まれるはずだ。でも、この似て非なるものとの向き合い方を確立すれば、間違いなくあなたは勝ち組になる。

●改革のチャンスにすら気が付かない「日本」

まずは、なぜ日本が埋没していったかを、私なりに解説してみたい。

2000年の出生者数119万、死亡者数97万に対し、直近では出生数は81万、死亡者数は144万、なんと年々60数万の人口が減少している。

人口推移は最も外れない予測値と言われているから、国の運営に関わる者も、民間経営層も、早くからすべてお見通しだったはずだ。1980年代には、その対策として大学で海外からの留学生徒をもっとたくさん受け入れる議論などもなされていたとも聞く。その時にもし徹底的に行動していたら……と思うと残念でならない。

多くの人が、人口減少が及ぼすインパクトに薄々気づいていながら、目先の平穏に身を預けていれられるのはなぜか?

年金問題、財政問題だって、ずっと前から分かっていた。取り組みは常に後回し、誰も目の前の利害関係ばかりに目を落とし、将来にツケが回ることを知りながら改革を後回しにし続けたのだ。

世界のジャーナリストに「自由に記事がかける国はどこか?」とヒアリングした評価が毎年発表されるが、日本は約20年前の26位から、いまや71位に転落している。

薄々日本の衰退に気づくチャンスすら奪われつつあるのだ。

人口減少により拍車のかかる財政悪化……財政悪化社会がどうなるかは、実はアメリカがよく知っている。

80年代、日本が黄金期を享受していたのに対し、アメリカは長期停滞にあえいでいた。自動車産業が停滞し、ジャパンバッシングが起きる一方で、この停滞を脱する術を見いだしていなかったのだ。

財政の悪化により、世界の中心たるニューヨーク市マンハッタンのインフラは朽ち果て、首都高速を走っていたときに道路にあいている大きな穴にハンドルを取られて事故になりそうなことが何度もあった。失業者が街にあふれ、ある冬に雪がちらつき始めた頃、小さな子供二人を抱きかかえるようにして道路で寝ている親子の姿はいまも瞼から離れない。

しかし、この後、アメリカは移民の活躍、IT革命等を通じて劇的に復活していく。

どの国もどの産業にも永遠はない。しかし工夫一つでシクリカル(循環的)にできることを経済大国のアメリカは示し続けている。

いまの日本はいわば、失われた30年という長期停滞が行きつくところまで行きついて、80年代のアメリカを迎えているわけだ。

もちろん、日本にも新しい生き方があるはずだ。

●日本を滅ぼす「忖度」の正体

さすがに日本の先がやばいと気づいて国も企業も多くの改革プランを作っては、“新しい提案をして見せよ”などと号令をかける。

でも若手が勇気と知恵を振り絞って提案すると、あれが足りない、これが足りないと、上司はついつい難癖をつけてしまう。「だったらあなたがアイデアを出してよ!」と多くの若手は思っているはずだ。

でもいえない・・その後の気まずさや、面倒くささを考えると、口に出すことをあきらめて、苦笑していた方が楽なのだ。上司の立場を「忖度」して、「あまり突っ込まないでおこう」「意味が解らないが、とりあえず従っておこう」とだんだんと組織の改革に後ろ向きになっていく。そのツケは、組織だけでなく、思考力低下として本人に回ってくるからやっかいだ。

一方で、昨今、安易に忖度しない若手も出てきた。

高等専門学校を卒業した人財アジアのある生徒は、入社後数年間、朝から深夜まで誰よりも働き、気付きをまとめて変革提言をした。「まだ早い、課長になるまで待て」と上司に言われてもくじけず、その足で「いつになったら課長にしてくれるのか?」と人事部に聞きに行ったそうだ。その後、起業し自分の目的に向かってストレートに邁進している。

若くして看護師になるも、もっと違った形で人の役に立ちたいと思い立ち健康食品に関わる会社を作った生徒は、いつも心から真実を求めている。「深く考えるのは得意でないから……」と言いながら、納得するまでとことん質問するので当方はいつも真剣になる。飾る邪心がないのは成功への王道だ。

大学を出て公共公益企業に勤めた生徒は、10年とことん働いたのち、誤嚥性肺炎を減らすための会社を作って急拡大している。我が道を貫く強さがあり、熱すぎる思いは、時として周りを引かせることもあるが(笑)、然るべき人を動かす力を持つ。

このように優秀な若手人財はたくさんいるのに、なぜか組織は彼ら、彼女らを活かしきることができていない。そこに「忖度」の存在が横たわっているからだ。

●「気配り」と「忖度」の境界

いまや忖度上手が組織のトップに立つ時代だ。しかし、その傾向も長くは続くまい。

「忖度」と「気配り」の違いは何か?

忖度は、軋轢が起きないように自分の思いを殺す行為だ。しかし、気配りは、自己実現のための最強の武器となる。

私がグローバルビジネスの現場で相応に成功した最大の理由は、日本企業で培った「気配り」を徹底的に異文化環境に持ち込んだからだ。

リスクの大きいグローバル人財は、ややもすると自分の感情を爆発させたり、自分本位の行動に走りやすい。だからこそ、激しい環境下でも変わらぬ日本一流の気配りは信頼を集めたのである。

日本人の気配り力に基づく世界最強のサバイバル術は、「言いたいことを言え、でも好かれよ」である。

よって、これから評価されるべき人財の評価基準は以下の図の通りとなると筆者は考えている。

【これから評価されるべき人財の評価基準】

<気配り>

A:最強人財 「上手に良いことを言う」
B:次世代人財「言い方は下手だが言いたいことを必死に言う」
ーーー
C:金縛りにあった人財「黙っている」
D:転落人財「中身のないことを上手に言う」

<忖度>

上記を分類すればAとBは「気配り」、CとDは「忖度」であることは言うまでもないだろう。結局、何もしないほうが良いということに収斂していくのが「忖度」だが、一方で「気配り」が出来ることとは、問題意識を持ち自分も高めようという人財に強く見られる特徴なのだ。

●「気配り」の実践法

では能力に気配りを備えた人間とは、どのようにして生まれるのか。

自分の問題意識、やりたいことの「軸」が何より大切。常に、その目的から逆算してすべてのことを考えていくのだ。

もちろん日本社会では忖度したくなる局面がたくさん出てくるだろう。言いたいことを言いすぎると、しばらくは損をするかもしれない。でも、皆さんには10年後に日本でも求められる人財評価基準を想像しながら、いまを頑張ってほしいのだ。私は、将来の幸せを夢見て、随分前に「落としどころ」と「まぁいいか」という言葉を口から発することを自分に禁止した。

簡単にこだわりを捨ててしまったら、気持ちが熱くなるような目標には決して出会えない。60~70歳になって楽しく振り返れない人生になってしまう。

頑張っているのにもったいない! 思う存分「気配り力」を発揮すれば、周りを説得して物事を通す成功体験が少しずつ積み重なる。

失敗の経験も自分を強くする。

つい先日躍進するシンガポール国の教育政策の実査に行ってきた。いくつかのヒントの紹介はまた別の機会に譲るとして、玄関の壁に掛かっていた印象的な言葉をお送りしたい。

“Find the Passion in you”

自身の中に存在する熱い思いを見つけよう!