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JB Pressに掲載されました  新年度で増える「自己紹介スピーチ」の機会、絶対外さないための5つの鉄則

新年度で増える「自己紹介スピーチ」の機会、絶対外さないための5つの鉄則
「仕事さえできれば自己紹介など下手でも」は大いなる勘違い
2022.4.3(日)
岡村 進

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 新年度は、新しい職場に転勤になったり、少し偉くなったり、本来なら少しワクワクする季節なのだろうが、性格的に明るくなれない私は、そんな春先が得意でなかった。さらに、あがり症なので、歓迎会のスピーチで決まって地獄に落とされる瞬間がトラウマ化している。

 そんな私がいかにしてその地獄を克服していったのか。今回は春先の「自己紹介スピーチ」の作法を余すことなくお伝えしたい。

●一言スピーチの作法

 致命的な上がり症の私は、そもそも自己紹介自体が苦痛なのに、歓迎会などの席で幹事役の人が、私の横の人を指して「じゃああなたから時計回りで挨拶を」などと言われようものなら最悪な気分になった。「私がトリじゃないか……」と気づき、いよいよ追い詰められていくからだ。

 もはや人の話など耳に入らない。「なにか気の利いたことを言おう」とは思うのだが、焦れば焦るほど頭が空回りするのだ。

 ましてや元気のいい後輩がうまいジョークを飛ばして会場がどっと沸いたりすると、プレッシャーはさらに高まり、自分の番が来る前にはすでにノックダウン状態となっている。

 前の人がしっかりと笑いを取ったあとに型通りの紹介をして、白けさせたこともある。上ずった声で笑いを取りにいって、その場が静まり返ったこともあった。後から上司に「無理して面白いことを言おうとしなくてよいんだよ」と慰められた忘れたい記憶は、なぜかたびたび脳裏によみがえってくる。

 三つ子の魂は百までとはよく言ったものだが、それなりの年齢になっても、いまだにあがり症は治らない。ただ、社会人のための学校を作って経営者となった以上、年度初めの挨拶から始まり節目の自己紹介から逃げるわけにはいかなくなった。

 この数年は、自分を鍛える機会に随分恵まれた。どうにかしなければとの思いで、自己紹介のマイルールを定めてからは、ある程度気楽に臨めるようになったのだ。

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【自己紹介のマイルール】
・最初に話す相手を定める
・話す目的を明確にする
・絶対に自分を飾らず、100%相手本位で役に立つ話をする
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 たかが自己紹介、されど自己紹介。大事な自身を表現する場なのだ。

 それまでの私は苦手意識から逃れるため、「仕事さえできれば、自己紹介など下手でもいつかわかってもらえる」と考えていた。ただ、だんだん自分の立場が上がってくると、そうは言っていられなくなる。その後の人間関係にも響いたりしてくることがわかるからだ。それからは、目的を明確にすることだけは、心掛けるようになった。

 つまり、「誰のために自己紹介をするのか? 何のための自己紹介なのか?」だ。

●100%相手の役に立つ話を組みたてる

 例えば、自分が転勤者を迎える側であれば、話す対象は新規参入者となる。

 少しでも彼らの役に立つことを伝えればいい。

 自分がこの部に来て要領が悪いから苦労したこと、でもどうにか乗り越えたコツなど話したら、少しでも安心させられるはずだ。「自分はこんなことが得意になったから、応援してあげられるよ!」と伝えてもいい。上司に試験を受けさせられたけど、難しすぎて不合格だったと自分の恥をさらしてあげてもいい。

 どれも新参者には役に立つはずだ。要は、徹底的に100%相手本位で話す内容を決めればいいのだ。

 かつての私は、何がいけなかったのか。自己紹介を、自分を立派に見せるだけの場と勘違いしていた。だから勝手にプレッシャーを感じてあがってしまったのだ。相手の役に立つことに神経を集中するようになってからは、緊張する暇すらなくなった。思いがけない上がり防止の方策になった。

●「コスト意識」が高いと自己紹介も変わる

 また、自己紹介にも企業文化が出る。

 グローバル企業勤務時代の自己紹介は結構インパクトがあった。

 世界に何万人も社員がいて、しかも転職文化なので、同じグループ内の同じ担当といっても初対面ということが始終あった。

 「自分はこんな人間だ」「同じ開発部門のメンバーが集まっているが、〇〇国の私たちはこんな工夫をしている」「今回の集いを通じて××を手に入れたいと思っている」等々、メリハリがきいているのだ。

 一概には言えないが、メンバーが変わってもそんな印象を何度か受けたので、日本企業とグローバル企業人の間に、傾向の違いはあるのではないかと気が付いた。

 結局時間のコスト意識が高く、忙しい中、時間をとって集まる以上、特定の誰かと仲良くなりたいと初めから目星をつけ、その人に向けて「私はあなたの役に立てる人だよ」とアピールしているようだと思い至った。一見、自慢大会となるが、相手目線を徹底している点で潔かった。

 要するに彼らは、必要に迫られて、自己紹介の腕を磨いているわけだ。

●アピールすべき本当の「強み」が見えてくる

 そう考えると、就社から就職に代わりつつある日本で、自己紹介の腕をあげるというのは、環境変化に適合するための大事な第一歩になるのではないかと思う。

 以前、仲の良いヘッドハンターに「日本人の立派なビジネスパースンに、“ご自身のことを少し説明してください”とお願いしても、きちんと説明できる人が驚くほど少ないんです」と聞かされて、考え込まされたことがある。

 確かに「〇〇会社や××部を経て、この△△部に異動し、日々戸惑っています」と言われても、他業界の人にはチンプンカンプンだろう。「いやぁ、いろいろ機密事項をやらされていまして……」と得意気な人もいるが、肝を可能な範囲で語れない段階で内向き意識と言語化力の弱さを露呈してしまっている。社内の人と付き合っている限り、みな顔見知りだから、自己紹介の腕を磨く機会が少なかったのだろう。また、時間のコスト意識が高い人が少ないので、目的を持って自己紹介している人も少ないように思う。

 だから私は、プレゼンテーション同様、自己紹介も準備の周到さに成否がかかっていると考えるようになった。例えば「私は内向的だったので本で人の心を学んだ」といっても、ピンとこないだろう。そこで「一カ月で29冊本を読んだことがあります」と説明するようになった。

 海外転勤をしてから意見を積極的に発信するようになったといってもイメージがわかない。だから、エピソードを交えて「初めて米国NYのマクドナルドに行ったときに、コーヒーと言ってコーラが出てきたときに、はじめは下を見てうつむくだけだったのが、徐々に珈琲タンクを指さして“Coffee!”と何度も叫べるようになった」と話すようにしている。

●自己紹介の5つの鉄則

 実はこうしたスピーチ術を磨く努力は、自分の真の強みが何か自覚を促す効果がある。

 例えば会計知識を持っている人は、そのこと自体を強みと思っているが、そうではない。「会計知識を使って、この企業に貸付をして良いかどうか判断すべく、決算書の分析をしていた」等、知識を実践にひも付けた経験にこそ強みがあるのだ。

 また、もしあなたが、かつて経験したことのない分野セクションへ新任課長として異動を命じられたら、ドギマギすることだろう。その苦難を乗り越えた人は、必死に知識を身につけたことを誇り語りがちだが、その体験で得た真の強みは、部下の知識や経験を使って協働する方法を身につけたこと、と切り取ったほうが説得力は高い。

 私は海外赴任経験があるが、その経験を強みとしては話さない。ある経営者に、「あなたの強みは、日本企業の海外支店長とグローバル企業の日本支店長を経験したことから生まれる比較感があることだね」と言われたことが心に刺さったからだ。

 こうしていまや私は次の手順を踏んで自己紹介に挑むようになった。

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1.自分を表すために過去の経験を人柄、ビジネス、趣味、夢等の切り口から徹底的に棚卸し、具体的事例を交えて言語化、定期的に更新する

2.聞き手の特性や“常識”を見極める

3.10個以上用意した自身の公私にまたがる特性からその場にふさわしい切り口と実例を選び出す

4.選んだコンテンツをもう一度、聞き手目線で理解しやすい言葉に置き換える

5.途中で相手に質問することで(プレゼン同様)相手に伝わっているか確かめる
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 運営しているビジネス予備校でも、「自己紹介」はここ数年で大事なテーマに育っていった過去の経験の的確な棚卸しと将来の戦略的キャリア開発のヒント獲得に通じるからだ。

 かつての私のように、苦手だけど仕事ではないから横に置くのではなく、自己紹介こそ次世代人財に不可欠な自身の棚卸しだと思って、準備万端の備えをしてほしいと思う。

 この憂鬱な時期が、少しでも、自己成長の素敵な時間なることを応援したい。