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JB Pressに掲載されました  あがり症だった私にスピーチ力を授けてくれた「5つの必勝法」

あがり症だった私にスピーチ力を授けてくれた「5つの必勝法」
ウケを狙うより「100%相手のために」を徹底せよ
2021.9.12(日)
岡村 進

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前回の寄稿で、私はアメリカ大統領、ビル・クリントンが1998年に来日した際のスピーチを紹介した。目の前で聞いていた私はその記憶が今も鮮明に残っている。彼のスピーチはなぜ忘れられないものとなったのか。

(前回記事)「伝える力」が急伸する、人と話すとき絶対やるべき「ある習慣」〈https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66867〉

感動ポイントは、彼は支持者のアメリカ人におもねらない姿勢、中身の簡潔さと程よいスピード、そして最後に支持者たちに敬意を表したことだった。

もっと身近なところで、みなさんの会社ではどうだろうか? 
上司の話は面白いだろうか? 皆さん自身は上手に話せているだろうか?

●プレゼン技術の必勝法

前回、私は日本人にとってプレゼンテーションは「苦手科目」といったが、厳密にいえば、「未履修科目」だ。ほぼ習ったことがない。

しかし、一度もプレゼンを習ったことのない日本人生徒の成長ポテンシャルは実はかなり高い。学び方を知らなかっただけで、やればかなり伸びる未開拓ゾーンなのだ。

あがり症でスピーチ下手だった私が、話し方変革(まだ改善)を成し遂げていったプロセスをざっくりと記してみたい。3カ月から半年で小さな変化、1年で小さな自信、3年で自分のスタイル確立が可能となるだろう。

(1)心構え・・・あがり症を抑えるための地味だが最強の薬

ハウツー本に書いてあるような防止策をいろいろ試してみたがどれもダメだった。イケてる人財だと思われたい欲が勝っているうちは、何を工夫してもあがる。大人数になってくると緊張のあまり心臓は破裂寸前になる。

対症療法ではなく、もっとも有効な内服薬になったのは、「100%聴衆の役に立つことだけを考える」と心に決めたこと。準備段階から、〈これを言うとウケるかな?〉とか言った発想を完全に払しょくする。

〈これは喜ばれるか? 新鮮な話か? 一時間かけて聞いてもらう意味があるネタか?〉と純粋に100%相手目線だけで吟味するようにした。だから、プレゼン中も自然に、「いま話していること伝わっていますか?」「私の説明下手でないですか?」「メッセージに意味を感じますか?」と何度も確認するようになった。

格好つけている場合ではない。「相手の時間を大切に!」の意識が染みついてから言動が自然になっていったのだ。

かつて社長にもかかわらず、「自分の話なんてたくさん社員を集めて聞かせるほどのことか?」と話し方の先生に悩みを吐露したら、「内容に自信がないなら社長を降りろ。聞き手に失礼だ」と叱咤されたことがある。それからそのポジションにいる限り、自分の考える内容に自信を持つこと、ダメなら勝手に周りがクビにしてくれるだろうと割り切ったことが、気持ちの持ち方の転換に大きな影響を与えた。

●準備に勝るものはなし

(2)原点・・・聴衆を徹底的に研究する

100%相手の立場に立つためには事前点検が不可欠だ。プレゼンテーションを準備する前に、相手を可能な限り調べつくす。どんな人が参加するのか? いま何を欲しているか? 悩みは? 今回のテーマを聞いたらどんなことに思いを馳せるのか? 人の話を聞くにあたり批判的な姿勢の人がどれだけ交じっているか? 等々。

参加者全員の様子がつかめないときにも、少なくとも2~3名参加予定の人を想定、想像することは可能だ。やむなく事前調査ができないときは、プレゼン資料の最初に、「みなさんはなぜ本日参加しているのか?」と質問ページを設ける。また会場に誰よりも早く着いて、ぱらぱらと座り始めた人に声をかけて参加理由を聞いていく。「あれっ、こんなに早く着いているあんた、本日の話し手なの?」と不思議な目で見られてもOK。「100%相手のために!」がモットーだから気にならない。

(3)事前準備・・・資料準備と模擬練習の時間配分

かつての私は話すのが苦手なくせに、いや苦手なあまり、行き当たりばったりで話をしていた。準備段階ですら、話のできない自分を直視するのが怖かったのだ。機会が増えるにつれ、さすがにまずいと思い読み原稿を一所懸命作るようになった。案の定、努力している割には、「話が平たんで面白くない」「伝わりにくい」と評判が悪く、報われなかった。もっともへこんだ時期だ。

そしてプレゼン力強化はまさにここからが勝負。まずは、読み原稿を丸暗記して当日はスーツのポケットに潜ませるが手に取らないようにした。時々言い忘れることはあるが、聞き手の聞きやすさが上がったようで、少し喜ばれるようになった。

さらに、次の段階として、事前の準備のときに、5割を資料作成にあて、残りの5割を模擬説明練習にあてるようにした。正直それまでは、資料作りに一所懸命で口に出して読むことはなかった。せいぜい小さな声で早口でそらんじる程度だった。しっかりと大きな声で口にだして、間をとってリアル感を出して練習すると、発音しにくいリズムの悪い言葉や、多すぎる情報量が気になるようになった。模擬的な発表練習中に、資料を手直しする機会が猛烈に増えていったのだ。

いまやスライド1枚に大きな字と時にはイラストなど交えてポイントを一つ示すのみ。それまで情報量を詰め込み過ぎていたことが滑稽に思えてきた。おそらくかつての10に対してせいぜい2~3の量に絞り込んでいる感覚だ。

●スピーチの目的とサービス精神

(4)話す目的とは何か。伝えることがすべてか?

みなさんはプレゼンテーションの目的を何だと思うか?

発表のあとに質問がたくさん出たら嬉しいか、悲しいか? 話し方の先生に言われて最もインパクトのあったのは、「あなたは何のためにプレゼンをするのか?」との問いかけだ。〈そりゃぁ伝えるためじゃない?〉と口に出しかけて、〈あれっ待てよ、本当にそうか?〉と思い始める。説明をして分かってもらいたいのはもちろんだが、意見は本来十人十色。それぞれが何を感じどう思ったか、反応をもらうことも大事な目的ではないのか。

そう思ったとたんに、質問や異論が出ないように、防衛的な気持ちでスライドに文字を書こみすぎる悪癖が消えていった。質問が出てやり取りする中でこそ、真の反応が確かめられるし、相手の疑問に相手の言葉で効果的に答えられるのだ。

(5)話す技術

 〈1〉言い切る強さ
人の話を聞くときに、是非スピーカーの語尾に関心を持ってもらいたい。私も含めてかなりの人は、「~と思う」「~と想像する」・・・と断定を避ける語尾を乱用している。「~である」「~してほしい」と言い切るには強さが必要だ。

是非、読み原稿を書いた後に、「思う」を半分から3分の1に減らしてみてほしい。逆に言えば、「~である」と言い切る場所を決めることを通じて、自分が何を伝えたくてこのスピーチに取り組んでいるか、自ずと頭が整理され明確になっていく。伝えることがあるから、話しているのだという意思と腹が固まっていくのだ。

 〈2〉7分に一回は質問を投げかける
断定的な意見発信を交えて話す一方で、数分に一度は、「~と思いませんか?」「みなさんならどうですか?」と質問表現を入れ込む話法が効果的だ。実際に答えを聞くことまでしなくても、質問されると人ははっとして顔を上げ、受け身の姿勢から自分事としてスピーチを聞く姿勢に転換していくのがわかる。

想定外のタイミングで話しかけられる緊張感や、思いがけず正直に本音を吐露してしまう効果がある。それに応じてこちらもさらに話す内容を軌道修正できる。相手本位でスピーチを組み立てる・・・すべての工夫に一貫した思想だ。

話し手が質問する行為はオンライン時代には特に大事な工夫である。

〈3〉会場の後ろに歩いていく
「自分が壇の上にあがるのか、同じ高さに立つのか」、「座って話すのか、立って話すのか」、「場所は固定するのか、歩き回るのか」。プレゼンを突き詰めていくと環境設定も極めて大事なことがわかる。

ミャンマーの若手100人以上を相手に講演をしたときに、アウェイにいる不安と通訳を介したコミュニケーションへの危惧から、前に棒立ちしたまま話してしまった。

前の席の人はとても熱心にうなずくものだから調子に乗っていたら、「後ろが盛り上がっていないのでは?」と指摘を受けた。勇気を振り絞って後部座席まで移動し、一人一人に質問をし始めたら、後部座席も瞬く間に熱い盛り上がりを見せていった。

●自分らしさが何より大事

話し方の訓練をしていると、「皆が画一的になって自分らしさを失うのではないか?」という人がたまにいる。これは、何回か練習を重ねるうちに、まったく見当違いの指摘だとすぐに気づくはずだ。同じ文章を読んでも、表情の違い、声質の違い、イントネーションの違いなどにより、伝わり方には大きな差が生まれるものだ。

もちろん習った技法をすべて用いるわけでもない。アイスブレークとして、最初にユーモアを交える発言がよく推奨される。私は、仕事はもちろん結婚式のスピーチでも、ここ20年ウケを狙って何かをしゃべったことは一度もない。もともと苦手な人間がウケを狙うと緊張で的を外し、ドツボにはまることを身をもって知っているからだ。

それではどう自分らしく味付けをするか? 私は、とことん聞き手の事前分析を行い、相手の素敵なところを誰よりも深く上手に褒める、表現することに情熱を燃やしている。ユーモアセンスなき自分が、その場に影響を及ぼすためには、自分らしさを徹底的に生かすしかないのだ。

日本において真にダイバーシティが尊重されるようになれば、プレゼンテーションの力がビジネスの成否を大きく左右するようになる。書き出せば、尽きることのないプレゼン技術も、スタートは目的や姿勢から始まることを感じ取ってもらえたら嬉しい。