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JB Pressに掲載されました テレワークとオンライン会議、こうすればもっと創造的に(後編)

オンラインとオフライン、結局どちらが効率的なのか
テレワークとオンライン会議、こうすればもっと創造的に(後編)
2020.6.15(月)
岡村 進

テレワークを一時的なブームにとどめず、永続的な実りある習慣として定着させるために、必要なことは何か?

私が15年前に外資に勤め始めたとき、皆当たり前のように家でも仕事していた。時差のある世界の同僚と協働作業ゆえ、夜中に自宅でメールの2、3やり取りを行っておくと、翌朝最終回答を受け取って日本ですぐ作業を完結できるのだ。これで一日、節約できる。

社内ネットワークにアクセスするために、刻々と数字の変わるパスワードを表示するトークンを渡された。トークンは日本でもいまは珍しくないが、当時の私には、洗練されたプロセスに新鮮な驚きがあった。

逆にパソコンは支給されなかったが、文句を言うものはいなかった。早く良い仕事をしたい、評価されたい、ビッグになりたいとの夢があるから、新入社員の不満の所在は、「もっと早くトークンを支給してほしい」というスピード感にあった。目的意識の大事さをあらためて痛感させられた。

日本企業は技術論より前に、もっと夢を語るべきだ。デジタライゼーション導入により実現したいビジネスの目標は何か? テレワークにより個々人が手に入れられる夢の働き方とはいかなるものか? 目的なき改革では、またぞろ頓挫の憂き目にあうだけだ。

かくいう私は、コロナショックにより増加したオンライン研修をきっかけに、少しわくわくした気持ちになっているので披露させていただきたい。

●オンライン会議のメリット

社会人向けにビジネス予備校を始め数年経つ。福岡校と東京校の生徒のつながりを密にすることに意を用いてきた。生徒の数を限定し、まだ現役生と卒業生を合わせても100数十名程度の小規模集団を維持しているが、それでも卒業して少し仲間との距離が広がる人の存在が気になり始めていた。

そんな中、OBOG会の幹事団が、卒業生を迎えて行う大事な今期初会合を、あえてオンラインにて実施しようと提案してくれた。そして懇親会をやらない分、資産運用の先生をお招きして、市場動向をアップデートしてもらうという。超ショートノーティスにも関わらず、東京・福岡両拠点に限らず、転勤先の名古屋・大阪など広域からすぐに60名弱が集まった。私にとって何よりも嬉しかったのは久しぶりに見る顔がたくさんあったとことだ。

こうして生徒に教わったオンライン研修の主催者側のメリットは、

・時間やコストを節約できる
・決めてから実行までのリードタイムが短い
・それゆえに何回も試行錯誤しながら改善していける
・ゲストスピーカーの負担を軽減できるのでお願いしやすい

等々複数存在する。

中でも最大のメリットは、参加者の心持ちから生じるものだった。心理的ハードルが下がり、小さな勇気さえあれば、久しぶりに会合に参加する気になるのがよくわかった。多様性の生み出す価値を大切にしているので、異なる価値観を持つ人財の参加が増える意義はとても大きい。アフターコロナの世界でも、二回に一回はオンライン開催したらどうかと言っている幹事に賛同する気持ちになっている。早速集会の頻度をあげて、来月はIT・オペレーションの外国人エグゼクティブに英国からオンライン参加してもらう段取りをととのえたところだ。

●オンライン会議を盛り上げる創意工夫

ちょっとした工夫で、オンラインでも議論を盛り上げることができる。
私が心がけているのは、次の5つのことだ。

1.最初に原始的に点呼をとる。
それぞれが参加している実感を持ってくれるからだ。加えてミュート機能やマイクの音量調節を確かめる場にもなる。

2.久しぶりの顔を見た喜びをあえて隠さないようにしている。
かしこまった段取り通りの進行に拘らず、「〇〇さんにあえて嬉しい!」という気持ちを隠さず正直に伝えるようにしている。

3.手元に出席者リストを用意してどんな些細なことでもランダムに出席者に質問するようにしている。
コロナショックを機会に18~24歳の若者向けに「次世代のキャリアとお金の考え方講座」という無料研修を始めたが、参加者から「大学配信のYouTubeと違っていきなり質問をされるので楽しい」といわれた。「中身ではなくそこかい!」と笑ってしまった。

4.リアルと同じ研修をしないことも大切だ。
少し分量を落としてみなで議論する時間を増やしたり、事前に手元用資料を配布しておいたり。オンラインを円滑に活用するためには資料やデータの囲い込みの意識を減らし、オープンアーキテクチャーに徹する姿勢の確立も大切となる。

5.大人数の研修を極力減らし、最大でも画面に一度に顔の映る20数名が好ましいと感じている。
オンラインになってむしろ上司とのコミュニケーションが増えたという若手がいた。ただ、それには条件があり、自分が何かいいたいけどいえないとモジモジした顔を画面でしっかりとらえて、名指ししてできる進行役の存在が必要だ。

小さな工夫は枚挙にいとまがない。努力さえすれば、双方向コミュニケーションの緊張感が高まり、15分程度の休みを交えれば、4時間の研修すら短く感じさせることができるというのは体験済だ。

技術的改善点は他にもたくさんあるが、ここであえて強調したいのは、オンラインだからといって無難な合意形成にとどまって満足するのではなく、とことん参加者の感情にも働きかけ、想定外の成果を目指す意識と工夫の大切さだ。

●外国人エグゼクティブが定例会議を嫌う理由

オンラインによる会議や対話からも高い次元の成果を引き出せるか否かは、リアルな会合をいかにマネージしてきたか、日ごろの心がけ、高い志に依存している。

私が外資勤務時代に外国人エグゼクティブの上司に定例会議の開催を申し出たところ、「わざわざ惰性の温床を作るのはやめよう」といわれた。

「われわれは、本当に大事な話のあるときに、こうして腹を割って話せる関係にあるじゃないか。定例会議を設ければ、そのために何かを準備し始めてしまうはずだ。それはあなたにも、私にも意味がない。いままで通り、必要な時にとことん話していこう」というのだ。

時間の大切さを肝に銘じ、日常的な会話ですら緊張感をもって向き合う姿勢の大切さを腹に落とした瞬間だ。それ以来、普段退屈な会議をしている人財は、ましてやオンラインでは絶対に感動を生み出すことはできないだろうと考えている。もしも部下たちに、「このまま在宅勤務でもまったく支障がありません」と言われてしまったときには、真っ先に、日頃の自身のリアルな会議やコミュニケーションの持ち方に、大いに反省すべきなのである。

私が15年前に外資に移った当時、自ら主宰する商品企画会議に先立って、メインの参加者である地域ヘッドに事前説明を申し出たことがある。「会議で話すことを、なぜ事前に個別で話さねばいけないのか?」と聞かれたから、「事前にレクをして流れをスムーズにするための日本人の知恵を、根回し(NEMAWASHI)と呼ぶのだ」と教えたら、しばらくは私の顔を見ると「ネマワーシ! ネマワーーシッ」と言って喜んでいたのをいまも覚えている。

●オフィス会議の工夫がオンライン会議の質を高める

ところが、彼らは、NEMAWASHIが会議の効率的かつ円滑な運営に資する代わりに、談論風発を封じこめてしまうことをすぐに理解した。1カ月も経たぬうちに、NEMAWSHIブームは終焉を迎え(笑)、むしろ私が、彼らの「折角色々な人に集まってもらっているんだから、その場であれやこれやと議論をし、思いがけないアイデアを生み出そうよ!」という姿勢に魅せられていった。

自分の人生において、会議との向き合い方が180度変わり、ひいては仕事との向き合い方が激論を持って良しとする方向に劇的に変化した歴史的瞬間だ。意見、異論の噴出する会議となるか否かは、ひとえに主宰者や司会の手腕にかかっている。どんな突飛な意見でも“Great!”“Fantastic”という掛け声を絶妙のタイミングで入れるからこそ、みな気持ちよく励まされて自分の本音を吐露するのだ。予定調和に陥らぬよう、あえて意見を噴出、議論を紛糾させながらも、最後は想定外の高い次元での成果に結びつけていく。皆さんは、こんな会議に参加したり、もしくは自ら運営したりした経験があるだろうか?

「予定調和」の実現を目指すのなら、メールのやり取りで十分。伸ばすべきは、リアルな会議で異論を引き出す力だ。リアルな会議で感動を生み出せるマネジメントは、オンラインでも近い成果を引き出せるはずだ。まさにリアルとオンラインの相互刺激による好循環の創出だ。

世の中を見渡すと、すでに何事もなかったかのように元の働き方に戻ろうとする動きも一部でみられる。アフターコロナの世界は予測するものではなく、自ら作るものと声高に言ってきた懸念が早くも顕在化しつつある。元に戻ってはもったいない! 在宅勤務と出勤のそれぞれのメリットを明確化し、その相互作用を通じて、仕事力を上げていく絶好のタイミングなのだ。

明確な理由を示せずに、全日出勤に戻ってしまうような会社は、学生から「ブラック企業」とレッテルを貼られ、ビジネスの最前線から退場させられるだろう。

逆に、「ホワイト企業」の要件とは?

DXに限らず、何事においてもまずは目的を明確化し、夢を語れる企業だ。「なぜ出社なのか」、「なぜテレワークなのか」を判断し、自ら選択できる真のビジネス人財を育成してほしい。つまりそれは、リアルが生み出す一流の技や、仕事へのパッションを教えることが原点にある。

それこそが今後厳しい環境を生き抜く必要のある若手の市場価値向上の源と信じるからだ。